芸術資料館の収蔵品は,来年140年を迎える本学の歴史の中で,様々な機会を得て集められてきました。それは本学にとって歴史の語り部ともいえます。
ろう染めとは,溶かしたろうを布にのせ,防染する染色法です。戦後本学でろう染めの指導にあたった小合友之助(1898―1966)は,中京区の友禅の型彫師の家に生まれました。本学前身の美術工芸学校図案科を卒業後,古裂の模写や図案制作に携わりながらろう染めで制作をするようになり,昭和7年(1932)第13回帝展で《臈纈和楽壁掛》が初入選しました。
小合がろう染めを選んだのは,「一貫作業が可能であり,作家の自由な個性が発揮しやすく,毛筆の味が生かせる」ことにありました。染織の古典を学び,新しい技法や染料の研究を続けた小合でしたが,「創作は技術より表現である」という信念のもと,ろう染めという「だれでも出来る技術で,だれにも出来ない表現を」追求しました。
本展では,小合をはじめ佐野猛夫,三浦景生,来野月乙,中井貞次,井隼慶人ら本学元教員の作品を中心に展示します。また小合関連資料として小合の古裂の模写や西陣織物館の委嘱により模写協力した図録『綾錦』,本学の図案科教育で使われた更紗裂帖,昭和42年(1967)の本学インドネシア美術総合調査隊が収集したジャワ島付近で作られる伝統的なろう染めの綿布であるバティックなどを展示します。そして,ろう染めの制作プロセスを本学美術学部工芸科染織研究室の協力を得て紹介します。
小合を慕い,その流れを受け継いで指導にあたった作家たちの作品を通して,ろう染めの魅力を感じとっていただき,戦後から現在に至る本学のろう染めの伝統について関心を深めていただく機会になれば幸いです。
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